第10回 アマニフォーラムセミナーレポ―ト
最新の医療情報と正しい栄養情報の提供
−予防医療−新しい高血圧診断・治療指針と非薬物療法の在り方
アマニフォーラム実行委員会・日本製粉株式会社(後援:一般社団法人 日本アマニ(亜麻)協会)は、2019年9月3日(火) JA共済ビル カンファレンスホール(永田町)にて、「第10回アマニフォーラムセミナー ~最新の医療情報と正しい栄養情報の提供~ ―予防医療―新しい高血圧診断・治療指針と非薬物療法の在り方」を開催しました。
【フォーラムセミナーの開催趣旨】
団塊の世代が65歳を超え、4人に1人が65歳以上の高齢者である「超高齢社会」の日本では、健康寿命の延伸を目指し、大変多くの方が健康に関心を持つようになりました。
巷では健康に関する情報が溢れ、様々な健康食品が紹介されています。
「この健康食品が身体に良い」と話題に上る都度その情報に振り回されたり、流行の商品の類似品が登場すると価格志向になり、安全安心が二の次になっていく場面が繰り返されています。偏った情報に右往左往し、何が正しいのかわからない状況は、生活者にとってメリットはありません。
私どもアマニフォーラム実行委員会、日本製粉株式会社は「生活者にやさしい社会の実現」を目指し、健康寿命を延ばしてQOL(=生活の質)を上げていかれるように、「最新の医療情報と正しい栄養情報」を生活者に伝えてサポートしていきたいと考え、2017年に「からだのケアフォーラム」を立ち上げ、それを推進する「アマニフォーラム」セミナーを開催しております。
2017年度「アマニフォーラム」セミナーでは、「高齢者の栄養管理」をテーマにサルコペニアやフレイル、それに伴う栄養管理情報、また地域包括ケアシステムの具現化と高齢者の生きがい就労の創生に向けた産学官連携の活動などについて、年4回のセミナーでお伝え致しました。
2018年度は、「若年層、子どもの栄養管理」をテーマに、社会環境的な問題の一つである貧困が子どもに与える影響や子どもの生活習慣病について、また、子どものアレルギー対策、子どもの脳と心の発育と脂質との関係についてなど、年4回お伝えして参りました。
今年度のアマニフォーラムセミナーは「予防医療」をテーマにし、我々を取り巻く環境が母体や子どもたちに与える影響について、また、最新のエビデンスに基づいた栄養情報をお伝えします。私どもは少子高齢社会の子どもたちが健やかに成長し、日本の将来を担い活性化していってもらうことを願い、今年度も取り組んで参ります。
セミナーに参加されるマスコミや医療、福祉関係者の皆様には、最新の正しい情報を生活者にお伝えいただきたく、また、賛同してくださる企業の皆様には、「最新の医療情報や正しい栄養情報」を基に、生活者が安心して暮らせる「場の提供」を一緒にお取り組みいただき、皆で「生活者にやさしい社会」を実現していきたいと考えております。何卒宜しくお願い申し上げます。
日本製粉株式会社 取締役 常務執行役員 前鶴 俊哉 氏のご挨拶
アマニフォーラムセミナーは、2017年から千葉大学元学長で名誉教授の齋藤康先生を座長に迎えて、毎回お医者様や研究者、関 係者の方の立場から正確な医療情報そして研究成果と正しい栄養情報を提供しているセミナーです。 現在3 年目を迎え、2017年度は高齢者の栄養管理をテーマに健康寿命の延伸を題材に議論をさせていただき、2018年度は若年層 や子どもの栄養管理をテーマに社会をとりまく環境、子どもたちをとりまく環境が与える影響や生活習慣について話し合い情報 を提供させていただきました。
今回は本年度2 回目のセミナーになります。2019 年度は通年のテーマとして『予防医療』を掲げています。
前回7月のセミナーに関しては、環境が我々大人や子どもたちに、 どのような影響をするかの情報をお伝えいたしました。さらには広い意味でのコミュ ニケーションが重要であるということについて情報を提供いたしました。今回のセミ ナーは、災害時の食事はどう摂るべきか、どのような点に気をつけるべきかを栄養 の面から西村先生にお話しいただきます。さらに循環器のご専門医である中田先生 からは、高血圧に関することについてお話しいただきます。
現在は、健康やそれ以外に関しても情報があふれている世の中であります。その中 から我々は、何が大切な情報か、何が役に立つ情報かを見極めることが非常に重要 であると考えます。そのためには、情報を提供する側、行政もそうですし、民間の 会社もそうですし、個人の方もそうです、その方々から上手に消費者の方へ正確な情報を伝えることが大事だと思っています。 その意味では、本セミナーはエビデンスのある情報を元にいろいろな話を聞くことができるので、それを評価し、参考にしていただければと思います。
今回ご登壇ならびに討論にご登壇いただいたのは、以下の方々です。
西村 一弘 氏
(公益社団法人日本栄養士会理事 栄養ケア・ステーション事業部副部長
公益社団法人東京都栄養士会会長 駒沢女子大学 人間健康健学康部栄 養学科 教授)
中田 徹男 氏
(京都薬科大学 病態薬科学系 臨床薬理学分野 教授 京都府立医科大学 客員教授)
川口 康平 氏
(日本製粉株式会社 イノベーションセンター)
【内容】
第1 部では、日本栄養士会の災害支援チームJDA-DAT で被災地へ入った実際の経験や災害時の栄養の摂り方などについて 西村先生ににご講演いただきました。
JDADAT(The Japan Disaster Assistance Team)は、日本栄養士会の災害支援チームです。大きな災害が起きると栄養士会のJDA-DAT が動きます。
災害時には、ストレスや疲労より食欲減退や睡眠障害になります。特に避難所生活では睡眠障害が多くなります。気仙沼の避難所で多く使われていたのが睡眠薬、それから耳栓です。食欲減退や睡眠障害を発端に疾患が出てきます。東日本大震災の時はまだ寒く雪も降っている状況で、風邪や花粉症が流行っていました。また、活動量低下、エコノミークラス症候群が起こってきます。災害が長期化すると肥満という問題も出てきます。気仙沼の場合は、漁師の方が仕事がなくなり仮設住宅の中で何もすることがない状況になり、肥満という問題が多くありました。また口腔ケアがうまくできず虫歯になる人が多く、歯科の先生方が苦労されていました。また血圧、血糖悪化、下痢、便秘などの生活習慣病も増えてきます。
災害で疾患がどのように増えていくか、特に脳血管疾患に関しての東日本大震災の岩手県のデータをみてみると、75歳以上の高齢の男性に多いことが明らかになっています。また、発災から4ヵ月のデータでは、体重はあまり変わらないが血糖値、HbA1c、血圧が悪化していることがわかり、生活習慣病に関してはわずか4 ヵ月で急速に悪化することが明らかになっています。
備蓄品で、今はどこの施設でも卓上ガスコンロを持っています。これはご家庭でも必ず用意しておいたほうが良いと思います。温かいものを食べられるということはとても大事です。お湯を沸かせるだけでカップ麺や備蓄品の中にアルファ化米という災害時用のお米があり、水でもどりますが、お湯でもどして温かいご飯を食べるということは全然違います。
施設ではローリング( ランニング) ストックをしています。災害用の非常食は、5 年くらいもつ缶詰やアルファ化米、フリーズドライのおかゆや味噌汁などがあります。
ローリングストックについては、缶詰やレトルト食品のような日持ちするもの、例えばツナ缶やさば缶を10 個備蓄して、新しいものを買ったら古いものから使っていくようにローリングしながら備蓄することが大事です。
災害時の拠点病院が各地区にあり最低3日間は作ることが基本になっていますが、どこの病院でも1週間くらいの献立は考えられています。献立の内容は、半分は災害食ですが、半分はローリングスットクで考えられています。
ご家庭でも災害時最低は3日分の献立を考えておくと良いと思います。実際に備蓄をしていても、どうやって何食を食べるのかを考えていない人が多いので、災害食を平時に料理する訓練をすることです。
行政の栄養士は、人数がとても少なくそれだけでは動けないので、他の地区からの応援やDAT チームからも応援に行っています。
日本にはチーム医療推進協議会があります。看護協会、薬剤師会、理学療法士会といったメディカルスタッフの協会があり、そこでも災害支援のマニュアルを作っています。
セミナーの後、西村先生への質疑応答が行われました。
第2部では、高血圧の診断や治療、非薬物を用いた治療の研究結果ついて中田先生にご講演いただきました。
高血圧のガイドラインが2019 年4 月に変更になりました。臨床の現場で高血圧の患者さんの治療に当たっている医者にとっても戸惑いが若干隠せないものがあります。
脳‐心‐腎連関という言葉があります。我々高血圧研究者にとって、高血圧はどうしておこるのかということを研究者の興味の面からお話することがつい多くなってしまいます。高血圧の成因論は大きくわけて、中枢神経の異常をとなえる研究者と腎臓の異常をとなえる研究者がいるとお考えいただいて良いと思います。最近は、そういうアバウトな話ではなく、もう少し細かくサイトカインや炎症といったところから説明がされています。交感神経というのは大脳皮質に発しまして血管運動中枢と呼ばれる視床下部・延髄のところが出力をコントロールしているもので、例えば心臓に対しては心臓の収縮力を高めたり、心拍数を速くしたり、血管を収縮したりします。
日本の新しい高血圧のガイドラインの変更点(JSH2019)「140/90mmHg以上が高血圧」ということは変わっていませんが、正常血圧の定義が大きく変わりました。120/80mmHg 未満が正常血圧に変更されました。
変更された理由として、日本では、現在高血圧者数が4300万人で、その中で3100万人がきちんと血圧管理されていないことが大きな問題であるといわれています。「健康日本21」、これは平成24年から10年計画でまもなく終了しますが、この10年間で収縮期血圧平均値を4mmHg下げることで脳卒中が年間約1万人、冠動脈疾患が、5000人減少が推測されるので、なんとか収縮期血圧を4mmHg下げようという国策です。
血管性認知症 脳血管疾患でおこる認知症のハザード比を血圧レベルで見るとやはり120/80mmHg未満に下げた方が低いというエビデンスがあります。
アマニには、オメガ3 脂肪酸(α- リノレン酸)、 リグナン、食物繊維が豊富に含まれていて、( オイルはα- リノレン酸のみになります) 降圧作用、脂質代謝改善、抗酸化作用、Na排出促進作用などの作用が報告されています。α- リノレン酸のオイルと、それ以外のリグナンや食物繊維も含んでいるアマニ粉末の違いを高血圧動物で実験をしてみました。さらに今回はシェーカーストレスと言って試験管を振るための機械を使って2分間ほど振盪負荷をかけ交感神経などの活動が変わるかどう調べました。α- リノレン酸量は0.3g と0.6g を投与しました。
結果1 アマニの降圧効果及び腎保護効果アマニ油、アマニ粉末のどちらを使っても DOCA食塩負荷高血圧モデルラットという重症高血圧モデルにおいても収縮期血圧を抑え、尿蛋白も抑えるという結果が得られました。
結果2 アマニは安静時の血圧及び交換神経活性を抑制した:またアマニを投与した場合、覚醒下安静時の平均動脈圧 心拍数が下がり、同時に交感神経活性も低下していることがわかりました。
結果3 アマニはストレス負荷時の昇圧及び交感神経活性亢進を抑制した:シェーカーストレスを与えると血圧が当然上がりますが、アマニを与えると昇圧が抑制され、交感神経の上昇も抑制されたというデータが出ています。
第3 部では、日本災害食として認められた日本製粉のアマニを災害時の備えとしてどのように扱えば良いのかを、川口氏にお話しいただきました。
2019 年8 月に一般社団法人日本災害食学会より、当社のアマニ関連製品の一部が日本災害食として認められました。
「日本災害食学会認証」とは、災害時に役に立つこと、及び日常でも積極的に利用可能な加工食品について、日本災害食学会の基準を満たしていることを学会が認めた食品になります。
アマニ関連製品を災害食として申請した理由として、避難所での微量栄養や必須脂肪酸の不足といった栄養不足に対し、アマニの持つオメガ3 等の栄養成分が有益と考えたことが挙げられます。
西村先生のお話にもありましたが、日常的でも積極的に利用可能な加工食品であり、かつ災害時の栄養補給に利点があるという2 点が災害食としての大きなポイントとなります。
アマニという食品は食材にかけるだけ、混ぜるだけといった手軽さがあり、栄養成分をバランス良く含むこと、必須栄養素であるオメガ3 が十分に摂れる食品であるということから、被災地で生活、活動するすべての人に有益であることが認証に至った要因だと思っています。
「アマニ油からオメガ3 を毎日小さじ1杯の摂取を目指しましょう」
日常生活は当然ながら、災害時にどのように利用するかということについては、①味噌汁やスープに加えて一緒に飲む、②おにぎりやお粥といったおそらく主食となるであろうというものと一緒に混ぜて食べる、③油としてそのまま飲むという摂り方もできます。①~③の利用方法であれば、災害時でも手軽に摂ることができるのではないかと思います。
アマニ油でオメガ3 の不足を補うこと、アマニ粒や粉末でオメガ3・食物繊維・リグナンを丸ごと摂る、そして毎日摂るということを習慣化するということで、3 つの栄養素の効果が期待できるのではないかと考えております。
第4部 質疑応答
第4部は、「高血圧に対するα- リノレン酸の作用」や「災害食としてのアマニ」などについて中田徹男先生・川口康平氏で質疑応答を行いました。
Q:「アマニででラットの血圧が下がったという動物実験の結果がありましたが、これは人でも同じような効果があるのでしょうか?」
A:中田先生「カナダを中心に正常血圧、軽症高血圧の方に、アマニの粒やパウダーに相当するものを一日約30g を半年以上続けてもらったところ、正常血圧の人を含めた全体で8mmHg くらい、その中でも高血圧の人だけにしぼると15mmHg くらい降圧したとの報告があります。さきほど、特定保健食品を降圧薬の代用に勧めてはならないとガイドラインに記載されているとお話ししましたが、カナダの臨床研究の結果からは、マイルドな降圧薬と同じくらいの効果が人でもあるということになります。」
Q:「今回災害食として認証をされましたが、なぜNIPPNのアマニで災害食の認証を受けようと思ったのですか?」
A:川口氏「避難所生活において、栄養が偏っているというお話が西村先生からもありました。特に主食によるカロリーは足りていますが、野菜や微量栄養素といったものを摂る機会がなかなかないと思われます。必須脂肪酸であるオメガ3 を摂れる点が災害食として向いているのではないかという理由もあり、アマニを災害食として認証していただきました。」
Q:「アマニで血圧が下がる作用メカニズムは人でも同じように働くということなのでしょうか?」
A:中田先生「2014 年 Hypertension という有名な医学誌に人でのデータが出ていますが、それのサブ解析の論文が出ていまして、α- リノレン酸がエポキシドヒドロラーゼを阻害することで、血圧を上げる悪いオキシリピン類の産生を抑えることが人の血液中のデータでもあります。先ほどのまとめのシェーマの中で、我々の動物実験のデータではないのですが、カナダでの人のデータのサブ解析の論文がでていますので、それをご紹介させていただきました。」
以上の他、中田先生には(正常血圧120/80mmHg になった場合どの程度の人数が高血圧になるのか、災害時というのは血圧が上がっていくものなのか、災害時は十分に薬などは足りているものなか、災害時にアマニのようなものを備蓄することが大切か)、川口氏には(日本災害食学会の認証取得は非常に難しいものか、認定取得されてからどのように活用していく予定なのか)のご質問にご回答いただきました。
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