第11回 アマニフォーラムセミナーレポ―ト

最新の医療情報と正しい栄養情報の提供

−予防医療−アマニ油が持つ多彩な健康増進効果の実態解明

アマニフォーラム実行委員会・日本製粉株式会社(後援:一般社団法人 日本アマニ(亜麻)協会)は、2019年11月12日(火) JA共済ビル カンファレンスホール(永田町)にて、「第11回アマニフォーラムセミナー ~最新の医療情報と正しい栄養情報の提供~ ―予防医療―アマニ油が持つ多彩な健康増進効果の実態解明」を開催しました。

【フォーラムセミナーの開催趣旨】

団塊の世代が65 歳を超え、4 人に1 人が65 歳以上の高齢者である「超高齢社会」の日本では、健康寿命の延伸を目指し、大変多くの方が健康に関心を持つようになりました。
巷では健康に関する情報が溢れ、様々な健康食品が紹介されています。
「この健康食品が身体に良い」と話題に上る都度その情報に振り回されたり、流行の商品の類似品が登場すると価格志向になり、安全安心が二の次になっていく場面が繰り返されています。偏った情報に右往左往し、何が正しいのかわからない状況は、生活者にとってメリットはありません。
私どもアマニフォーラム実行委員会、日本製粉株式会社は「生活者にやさしい社会の実現」を目指し、健康寿命を延ばしてQOL(= 生活の質) を上げていかれるように、「最新の医療情報と正しい栄養情報」を生活者に伝えてサポートしていきたいと考え、2017 年に「からだのケアフォーラム」を立ち上げ、それを推進する「アマニフォーラム」セミナーを開催しております。
2017 年度「アマニフォーラム」セミナーでは、「高齢者の栄養管理」をテーマにサルコペニアやフレイル、それに伴う栄養管理情報、また地域包括ケアシステムの具現化と高齢者の生きがい就労の創生に向けた産学官連携の活動などについて、年4 回のセミナーでお伝え致しました。
2018 年度は、「若年層、子どもの栄養管理」をテーマに、社会環境的な問題の一つである貧困が子どもに与える影響や子どもの生活習慣病について、また、子どものアレルギー対策、子どもの脳と心の発育と脂質との関係についてなど、年4 回お伝えして参りました。
今年度のアマニフォーラムセミナーは「予防医療」をテーマにし、我々を取り巻く環境が母体や子どもたちに与える影響について、また、最新のエビデンスに基づいた栄養情報をお伝えします。私どもは少子高齢社会の子どもたちが健やかに成長し、日本の将来を担い活性化していってもらうことを願い、今年度も取り組んで参ります。
セミナーに参加されるマスコミや医療、福祉関係者の皆様には、最新の正しい情報を生活者にお伝えいただきたく、また、賛同してくださる企業の皆様には、「最新の医療情報や正しい栄養情報」を基に、生活者が安心して暮らせる「場の提供」を一緒にお取り組みいただき、皆で「生活者にやさしい社会」を実現していきたいと考えております。何卒宜しくお願い申し上げます。

 

日本製粉株式会社 取締役 常務執行役員 前鶴 俊哉 氏のご挨拶

 


アマニフォーラムセミナーは、2017年から千葉大学元学長で名誉教授の齋藤康先生を座長に迎えて、毎回お医者様や研究者、関 係者の方の立場から正確な医療情報そして研究成果と正しい栄養情報を提供しているセミナーです。 現在3 年目を迎え、2017年度は高齢者の栄養管理をテーマに健康寿命の延伸を題材に議論をさせていただき、2018年度は若年層 や子どもの栄養管理をテーマに社会をとりまく環境、子どもたちをとりまく環境が与える影響や生活習慣について話し合い情報 を提供させていただきました。

今回は、アマニが ” 国民病” アレルギーに貢献の可能性!「アマニ油が持つ多彩な健康増進効果の実態解明」というテーマになります。特に花粉症のような症状は、かなりの方がかかっていると思います。私も50 半ば過ぎから発症し、この症状を緩和できるものがあればといつも思っています。もちろん薬もありますが、たとえば食べ物で症状を緩和するものがあれば、みなさんも喜ばれるのではないでしょうか?実際に食べ物で摂るということは、普段の食生活の中のことで、心がけで健康面においていろいろなところで寄与することができます。食べ物はバランスよく食べるということが必要だと思いますが、いろいろな食べ物があり、その中の一つとしてアマニがどのような面で機能できるのか、非常に興味があるところです。

本日は花粉症のようなアレルギーに対して可能性やエビデンスなどをご紹介していただけるので、ぜひ参考にしていただければと思います。また糖尿病についても、糖尿病からくる炎症の緩和についての可能性や未発表のデータなどもご報告いただけるということですので、ぜひ参考にしていただければと思います。

今回ご登壇ならびに討論にご登壇いただいたのは、以下の方々です。

國澤 純 氏

(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターセンター長 ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクトプロジェクトリーダー)

 

澤根 健人 氏

(日本製粉株式会社 イノベーションセンター)

【内容】

第1部では、腸内環境システムの研究を行っている國澤純先生にアマニ油が持つ健康効果について、ご講演いただきました。

みなさんアマニは健康に良いことは分かっていると思いますが、実際なぜ良いのか、効果が出る人と出にくい人がいるのは、なぜなのかについて私たちの研究から見えてきた知見についてご紹介したいと思います。

最近では腸内細菌が私たちのお腹の中に約1000種類存在していて、いろいろな健康状態をコントロールしていることが分かっています。さらに私たちは毎日いろいろなものを食べているので、これが栄養として私たちの体にいろいろな影響を与えているわけですが、同時に食べたものは、腸内細菌の餌にもなっていて、私たちの体の機能が食べるものよって変わっていくのと同じように、私たちがなにを食べたかということによって腸内細菌の構成や機能が変わってきます。
さらに体の中には、私たちがつくり出したものだけではなく腸内細菌が食べたものを消化し代謝物として私たちに供給し、これが私たちの体に入ってきて影響を与えているということが分かってきています。
今までは何をどれだけ食べましたか? もしくはどんな腸内細菌がいますか?といった形で、一元的な観点から調べられていましたが、これからはどんな腸内細菌を持つ人がどんなものを食べたから何ができてきてどう効くんですか、という形で食と腸内細菌の相互作用をいろいろ見ていくことが重要であることが分かっています。
そこで私たちも、腸内細菌をゲノム、すなわち遺伝子から解析していく手法や、どんなものを食べてどんなものができましたかというメタボローム解析を使いながら、いろいろな動物モデルや日本各地にお住いのいろいろな方のデータを用いて解析をしています。いろいろなデータがでてきますので、バイオインフォマティクス、もしくはAIといった技術を使い、私たちは気付けなかった新しい機能を見つけ出していくことを行っています。

私たちの研究ではまず始めに、アマニ油がアレルギーを抑えることを動物モデルから明らかにしました。
たまごを食べた時は下痢をし、食べないときは下痢をしないというたまごアレルギーのモデルで大豆油をアマニ油に置き換えると、マウスが下痢をしなくなってくるということが分かりました。このことから油は量だけではなく、どんな脂肪酸組成であるかといった中身も大事だということが分かりました。
食事の中のα- リノレン酸とリノール酸の割合によって、私たちのお腹の中の油の組成が変わるということが分かりました。またEPA とDHA は、よく青魚に含まれていると言われる脂ですが、私たちはα- リノレン酸からEPA を作ることもできます。そこで次にEPA の量を測定すると、アマニ油を食べていると増えること、すなわち食べた油に含まれる脂肪酸がそのまま影響するだけではなく、そこから出来てくるEPA などの代謝物も影響を受けることが分かりました。

EPA は、健康増進効果が注目されている油です。最近の研究から、EPA そのものが効くというよりは、そこからさらに酵素によって色々な形に変わった「代謝物」が非常に強い活性をもつということ分かってきました。

次に、お母さんがアマニ油を摂ることによって子供のアレルギーを抑えることもできるのではないかということも分かってきました。大豆油が入った餌とアマニ油が入った餌で飼育したマウスが妊娠、出産し、その母乳に含まれている脂をみてみると、アマニ油で飼育するとEPA やDHA が増えてくることが分かりました。
さらにこの母乳で育ってきた仔マウスにアレルギーのモデルを適用するとアマニ油で飼育した仔マウスはアレルギー性皮膚炎を抑制できるということが分かってきました。
皆さんよくご存じのように、同じものを食べても皆同じ効果があるわけではありません。私たちがどんな酵素どのくらい持っているのか、さらにはお腹の中にどんな腸内細菌がいるのか、一緒に食べる発酵食品にはどのような機能をもつ微生物がいるのかということが、食の効果を決めています。これらは非常に大きな個人差があるので、腸内細菌をみることにより食べ合わせの指導ができるのではないかと考えています。その時のキーワードは「ポストバイオティクス」になってくると考えています。
その他、腸内細菌の地域特性、糖尿病の改善効果、食後血糖値を抑えるセカンドミール効果やアマニ粒の健康効果、腸内環境を基盤にした健康科学の発展や新産業創出への発展など様々なエビデンスだけでなく、将来に向けた研究についてもお話しいただきました。

 

 

 

 

第2部では、日本製粉株式会社イノベーションセンターの澤根健人氏にアマニのアレルギーへの貢献の可能性ついてご講演いただきました。

アマニについて、特にその中でもアマニのアレルギーへの貢献の可能性について最新のデータ等をご紹介しながらお話しいたします。

私たち食品メーカーとしては、日常の食生活を通してアレルギーの症状を軽減できないかと考え、アマニに含まれる成分が有効ではないかと考えました。
実際に過去の研究を調査したところ、アマニ油を食べたマウスにおいてアレルギー性結膜炎による目のかゆみや腫れが抑えられることが報告されていました。
この研究では、大豆油もしくはアマニ油を使用した餌を食べさせたマウスにアレルギー結膜炎を誘導したところ、アマニ油の摂取によりマウスが目を引っかく回数と目の腫れが抑えられるということが報告されていました。
そこで私たちは、花粉症の中でも特に鼻の症状に着目をしました。同じように大豆油もしくはアマニ油を使用した餌を与えたマウスにアレルギー性鼻炎を誘導し、鼻炎に伴い発症するくしゃみの回数をもとに重症度を評価したところ、アマニ油を食べたマウスにおいてくしゃみの回数が少なく、症状が軽減されていることが分かりました。この結果から、アマニ油を食べて体内にオメガ3 脂肪酸を増すことでアレルギーの症状を予防できると考えました。

食物アレルギーの研究では、17,18-EpETE というEPA 由来の代謝物が腸で特徴的に増え、その代謝物が食物アレルギー症状を抑えていると報告されています。同じようなアプローチを考え、鼻粘膜にもEPA 由来の代謝物が実際に増えているか調べたところ、代謝物X というものがヒットしてきました。この代謝物X は、大豆油を食べているマウスにはほとんど蓄積しないのですが、アマニ油を食べたことにより少し増加し、さらに鼻炎を誘導することにより劇的に増加していることがわかり、代謝物X がアレルギー症状の制御に関与している可能性が考えられました。
そこで、代謝物Xが実際にアレルギー性鼻炎を抑制するかを検証しました。これは、大豆油で飼育したマウスに代謝物Xを投与しながらアレルギー性鼻炎を誘導するというモデルです。普通に鼻炎を誘導したマウスに比べて、代謝物X を投与したマウスのくしゃみの回数が減少しており、この代謝物X がアマニ油を食べたことによってくしゃみが軽減することの実行分子として働いているということがこの研究から分かりました。

食物繊維とアレルギーの関与は、昔から研究が広く行われています。
過去の報告では、食物繊維を食べていないマウスとたくさん食べさせたマウスにピーナッツアレルギーを誘導し比較すると、食物繊維をたくさん食べた場合に症状が軽減されるという結果がでています。
この結果は食物繊維でアレルギーが完治するということ示しているわけではありませんが、食物アレルギーの改善に食物繊維が一部関わっていることが示唆されています。別の報告では、アレルギーの疾患の一つであるぜんそくとの関連を調べており、ぜんそくの症状の酷さにも食物繊維摂取が関与すると報告しています。
通常の飼料と食物繊維をたくさん含む飼料を食べさせたマウスにぜんそくを誘導したところ、食物繊維の摂取で症状が改善されるという結果が報告されています。
こちらも同様に食物繊維をたくさん食べたことで完治することを示しているわけではありませんが、食物繊維の摂取によりなんらかのメカニズムで症状が抑制されることが示唆されています。

 

第3部 Q&Aトークセッション

第3部は、会場の皆様からの1部、2部のセミナーに関する疑問質問に、國澤 純先生・澤根 健人氏がお答えくださいました。

 

Q:「アマニ油を摂ると腸内細菌を通して炎症を抑え糖尿病になりにくくなるという話がありました。人によって作られるものが違うということなので、人によっては糖尿病になってしまう人もいるのではないでしょうか?」

A:國澤先生「ご質問の通りで、今日は腸内細菌について詳しくお話しできなかったのですが、腸内細菌は人によって全く違っていて、活性も違うということが分かっています。ですので、同じようにアマニ油を摂っても糖尿病になりにくくなる人と、摂ってもなってしまう人がいると考えています。私たちは、効果が出にくい人に、どのようなものを一緒に食べてもらえば、効果が出やすくなるかを研究しています。今回代謝物の名前は出せなかったのですが、例えば代謝物を作る菌を含むヨーグルトを作り、そのヨーグルトと一緒にアマニ油を摂れば自分の腸内細菌で作ることができない人でも、糖尿病の予防や改善を期待することができるようになると考えています。」

 

Q:「自分の代謝酵素の特性を調べる方法はありますか?」

A:國澤氏「今まさに、それをつくろうとしているところです。大豆イソフラボンから腸内細菌がつくるエクオールというものがありますが、エクオール産生菌を持っているかどうか調べるキットが売られています。油などの効果については、糖尿病が気になる人、アレルギーが気になる人など、人それぞれに気になることに対して、キットを購入し自分が代謝物を作ることができるかを診断することができるシステムができれば腸内細菌を全て調べなくても、その時の自分が知りたい状態がわかるのではないかということを今考えています。」

 

Q:「アレルギー性鼻炎で鼻粘膜にアマニ油を摂ったことによってできる代謝物で炎症を抑えているということから、アレルギー性結膜炎も同様の理由で改善していると考えられますか?」

A:澤根氏「アレルギー性結膜炎の論文に関しては、実際にどんな代謝物が炎症を抑えているかということは報告がされていませんでした。しかし実際に調べたデータを見てみると、アマニ油を摂ったことによりオメガ3 脂肪酸やその代謝物の蓄積がされていることが報告されています。メカニズムが一緒ということはわかりませんが、アレルギー性結膜炎に関してもアマニ油を食べていると目の周りの結膜にオメガ3 脂肪酸の代謝物が蓄積し、炎症が落ち着いていくといった大まかな流れは一緒ではないかと考えています。」

 

以上の他、(腸の有用菌に影響を与える食べ物や習慣はあるのか、トランス脂肪酸は、どのような油なのでしょうか)等のご質問にご回答いただきました。

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