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亜麻仁油摂取による母乳を介した仔マウスにおけるアレルギー性皮膚炎の改善

アレルギーエビデンスオメガ3脂肪酸

 2020213日 プレスリリース 

 


【研究成果のポイント】

  • 妊娠・授乳期のマウスが、オメガ 3脂肪酸(用語解説 1)の一つであるαリノレン酸を豊富に含む亜麻仁(あまに)油を摂取することで、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されます。
  • 亜麻仁油を摂取した際に母乳中に増加する抗アレルギー性物質として、αリノレン酸からEPAを経由して産生されるオメガ3ドコサペンタエンサン(DPA)の14-ヒドロキシ化代謝物(用語解説2)を同定しました。
  • オメガ 3DPAの   14-ヒドロキシ化代謝物は、免疫の司令塔として機能する形質細胞様樹状細胞(用語解説3)において免疫を抑制する働きのあるTRAIL(用語解説4)の発現を上昇させることで、T細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制した結果、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されることを見出しました。
  • 本研究によりマウスでの効果が証明されましたが、今後、ヒトでも同様の効果があるか確認することが必要です。将来的にオメガ3 DPA の  14-ヒドロキシ化代謝物を用いたアレルギー・炎症性疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

【概要】

国立研究開発法人医薬基盤・健康栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターの國澤純センター長と平田宗一郎研究員、長竹貴広主任研究員らは、京都大学、理化学研究所、NTT 東日本関東病院、東京大学との共同研究により、オメガ3 脂肪酸が豊富な亜麻仁油食を母マウスが摂取した際に、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されるメカニズムを解明しました。

近年、アレルギー・炎症性疾患の患者数が増加傾向にあり、その要因として食事などの生活習慣とそれに伴う腸内環境の変化が注目されています。特に乳幼児期に発症するアレルギーに関し、妊娠・授乳期の食生活や母乳に含まれる成分の関与についてさまざまな指摘や推測がされてきましたが、実際の因果関係やメカニズムはほとんど分かっていませんでした。

本研究では、オメガ3脂肪酸の一つであるαリノレン酸を多く含む亜麻仁油を妊娠・授乳期のマウスに摂取することで、仔マウスのアレルギー性皮膚炎の発症を抑制できることを見出しました。母乳を作る場となる乳腺には他の臓器と異なるユニークな脂質代謝ネットワークが存在し、亜麻仁油を摂取することで、母乳中にオメガ3 ドコサペンタエンサン(オメガ3 DPA)の14-ヒドロキシ化代謝物という抗アレルギー性物質が多く作られることが分かりました。この抗アレルギー性物質は母乳を介して仔マウスに移行し、免疫の司令塔として機能する形質細胞様樹状細胞に働きかけ、免疫反応を抑制する作用があるTRAILという分子の発現を誘導することで、T細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制し、その結果、アレルギー性皮膚炎を抑制することが分かりました。今後、本物質を用いたアレルギー・炎症疾患に対するアレルギー・炎症性疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

本研究成果は2月6日に『Allergy』にオンライン掲載されました。

 

【背景】

これまでに母親の食事や母乳の中のオメガ3 脂肪酸が多いと、乳幼児期のアレルギーの発症率が低いことがコホート研究により報告されていました。しかし、母乳中のオメガ3 脂肪酸が乳幼児アレルギーの発症を抑えるメカニズムはよく分かっていませんでした。

 

【今回の研究成果 (下図を参照)】

本研究では、オメガ3 脂肪酸の一つであるαリノレン酸を多く含む亜麻仁油を妊娠・授乳期に摂取することで、生まれてくる仔マウスのアレルギーの発症を抑制できることを見出しました。母乳を作る場となる乳腺には他の臓器と異なるユニークな脂質代謝ネットワークが存在し、亜麻仁油を摂取することで母乳中にオメガ3 DPA の14-ヒドロキシ化代謝物が増加し、抗アレルギー効果を示すことが分かりました。母乳を介して仔マウスに移行したオメガ  3 DPAの   14-ヒドロキシ化代謝物は、免疫反応の司令塔とも言われる樹状細胞に働きかけ、免疫反応を抑制する作用があるTRAIL という分子の発現を誘導することで、T 細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制し、その結果、アレルギー性皮膚炎を抑制することが分かりました。本研究によりマウスでの効果が証明されましたが、今後、ヒトでも同様の効果があるか確認することが必要です。将来的には本物質を用いたアレルギー・炎症性疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

図. 母体のオメガ 3DPA 代謝と仔マウスアレルギー性皮膚炎の抑制

妊娠・授乳中に亜麻仁油を摂取することによって、母乳を介してオメガ  3DPA の14-ヒドロキシ化代謝物が仔マウスに移行し、形質細胞様樹状細胞における免疫抑制分子TRAIL の発現を誘導することで、アレルギー性皮膚炎が抑制されます。

 

【社会に与える影響】

本研究の成果をヒトでの実証研究に発展させることで、乳幼児アレルギーをはじめとするさまざまなアレルギー・炎症性疾患の新たな治療法として、オメガ3 DPA やオメガ3DPAの14-ヒドロキシ化代謝物を用いた創薬や機能性食品の開発、更には母乳中の脂質代謝物の産生を指標とした個別化栄養指導など、幅広い領域に応用されることが期待できます。

 

【特記事項】

本研究は日本医療研究開発機構免疫アレルギー疾患実用化研究事業「高機能性脂質代謝物を用いたアレルギー性皮膚炎制御法の開発」(研究開発代表者:國澤純)の支援に加え、日本学術振興会、東京大学医科学研究所共同研究拠点、キャノン財団、公益財団法人小野医学研究財団、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、公益財団法人ニッポンハム食の未来財団からの助成を受けて行われました。

 

【用語解説】

1)オメガ3 脂肪酸:ヒトを始めとする哺乳動物の体内では合成できない必須脂肪酸の一群で、亜麻仁油やエゴマ油に多く含まれるαリノレン酸や青魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やDHA などが含まれる。

2)オメガ3 DPA の14-ヒドロキシ化代謝物:オメガ3 脂肪酸の一つであるDPA が体内で代謝され、特定の部位にヒドロキシ化という変化をうけて生じる物質。

3)形質細胞様樹状細胞:免疫の司令塔として知られる樹状細胞の一種。免疫応答を抑制するTRAIL というタンパク質を発現することで過剰な免疫の活性化を抑制することが知られている。一方で、状況によっては炎症を促進する働きも持つ。

4)TRAIL:「TNF関連アポトーシス誘導リガンド」の略称で、炎症時においてT 細胞を始めとする病原性細胞の活性化の抑制や細胞死を誘導することが知られている。

 

【本件に関する問い合わせ先】

<研究内容に関すること>
國澤純( くにさわじゅん)

E-mail:kunisawa@nibiohn.go.jp

国立研究開発法人医薬・基盤・健康・栄養研究所

ワクチン・アジュバント研究センター     ワクチンマテリアルプロジェクト腸内環境システムプロジェクト

567-0085

大阪府茨木市彩都あさぎ7-6-8

TEL: 072-641-9871

FAX:072-641-9872

 

【論文タイトル】

Maternal w3 docosapentaenoic acid inhibits infant allergic dermatitis through TRAIL-expressing plasmacytoid dendritic cells in mice

 

【著者】

So-ichiro Hirata, Takahiro Nagatake, Kento Sawane, Koji Hosomi, Tetsuya Honda, Sachiko Ono, Noriko Shibuya, Emiko Saito, Jun Adachi, Yuichi Abe, Junko Isoyama, Hidehiko Suzuki, Ayu Matsunaga, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Kiyono, Kenji Kabashima, Makoto Arita, and Jun Kunisawa

 

【掲載雑誌】

Allergy

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